【感想】アキ・カウリスマキの『街のあかり』で、寝ない。(ロバート・コペンハーゲン)2007.07.08 20:27

家族もいない、恋人もいない、友人もいない。フィンランドのヘルシンキに暮らす、そんな孤独な夜間警備員の男が、マフィアの情婦に騙されて、強盗幇助の罪を擦りつけられる。冷酷な情婦に対する愚直な恋心から、彼はそれを受け入れるのだが、一方で、彼のことを静かに、しかし温かく見守り続ける女がすぐそばにいることに、彼は一向に気がつかずにいるのだった……。

『浮き雲』『過去のない男』に続く「敗者三部作」の最終章として作られた、アキ・カウリスマキ監督の『街のあかり』。アキ・カウリスマキ監督の作品は『過去のない男』しか観たことがない上に、正直言って「あんまり相性よくねえなぁ」と感じていたにも関わらず、初日に観に行ってしまいました、渋谷のユーロスペースに!

いつもガラガラなイメージのユーロスペースも、超有名監督の最新作とあっては、立ち見も出るほどの大盛況。初回を観ようと思って行ったのに、すでに満席とのことで次の回のチケットを買うと、整理番号はもう20番台。「なるほどスゴい人気だな、アキ・カウリスマキ! あんまり好きじゃないけど!」と思いつつ適当に時間を潰した後、劇場へ戻って着席し、予告編を観ていたところまでは順調だったのですが……本編が始まった途端、猛烈な睡魔が僕を襲いました!

さあ、睡魔と僕との死闘の始まりです! 早速スニーカーを脱いで、脚を組みます。右脚を上に、左脚を上に……全く歯が立ちません。腕の皮膚をつねったり、行儀が悪いとわかりつつも座席の上で膝を抱えてみたり、事前に購入しておいた午後の紅茶を口に含んでそのままにしてみたり……それでも僕の意識は遠のき、その度に何度も頭がガクッと後ろの方にのけぞります。スクリーンに目の焦点が合いません。

いっそこのまま寝てしまおうか! 10分だけ寝て、後からストーリーに追いつこう。いやいや、一度寝てしまったら起きられる保障はどこにもないし、なにせこの映画自体78分しかないのだから、きっと取り返しのつかないことになってしまうに違いない! アキ・カウリスマキはストーリーの理解のために必要な最低限のシーンしか客に提示しない洗練された手法で映画を作るし、登場人物はみんな無表情だから、絶対ワケがわからなくなるはず! 寝られない! 1秒たりとも! でも、でも!!!

そして、気がつけば睡魔とともにエンドロール。ストーリーだけはなんとか全部追えました。睡魔との闘いに明け暮れた僕ですが、ラストシーンは眠いながらもジーンときました。感情を表に出さない演出が逆にそこにある強い絆を予感させ、とことん地に落ちた孤独な男にもたらされた微かな光が、この東京というコンクリートジャングルの中で、彼とほとんど同様に孤独に暮らす自分をも照らしているかのように錯覚されたのです。ダメでダメでしょうがない、何の取り柄もない奴のことを見捨てない視線のことを夢想しながら劇場を出ると、そこには濡れたアスファルトと、小汚いラブホテルと、どんよりとした曇り空が。この世のどこに期待すべきものなんてあるんだろう……僕はだらしない足取りで、ドン・キホーテの角を曲がりました。