ライター:みんな
ページトップの山盛りゴハンの写真を求めて、ライターたちが全国津々浦々を訪れた 際の様子を徹底的にレポート! 日本の名所名跡はもちろん、人食い虎の棲むジャン グル、放射能に汚染された未来都市……どんなところへも電子ジャーを片手に旅を続 ける命知らずの男たちの生き様をとくとお読みあれ!

第4回 オレ達の桜の森の満開の下


「センチメンタル電子ジャーニー」、久々の更新になってしまいました。トップ画像が毎月更新されていることが示すように、相変わらず旅には出続けているのですが。僕らは旅の「記憶」は心のなかに刻み込んでおくタイプなので、ついつい「記録」という行為にはおっくうになってしまうんです。旅先の風景や空気に直接触れるという、純粋な経験こそが僕たちの心を震わせるのであって、それを後から見返せるように保存するという行為には何の興味も無い。本当なら旅先では、写真は一切撮りたくないとさえ思っています。しかし、こんなホームページをやっているから仕方なく写真に収めているんです。そのあたり、誤解しないでいただきたい。

今回のジャーニー(4月分)は僭越ながら僕、としゆきがお届けします。

さて、4月の「お米は生きている」トップ画像の撮影は都内きっての桜の名所、井の頭公園で行われました。


桜の森の満開の下、これまでのジャーニーでも指折りのすばらしいショットになったと思います。だけど。この写真を撮るためには実は、一悶着あったんです…。そんな裏話が、今回のジャーニー。
まずはこの写真を見てください。


ロバートくんとBro.トシマサくんが井の頭池の橋に立ち、仲よさげに二人揃って写っている写真です。にこやかな笑顔がまぶしいです。二人揃ってメガネというところにも、二人の友情がにじみ出ているような感じがします。しかし何を隠そうこの二人、撮影の前日に殴り合いの大ゲンカをしていたのです…!

ケンカが起こったのは、ジャーニーの目的地を決める「お米は生きている」の定例会議in和民でした。三度の飯より花見(と和民)が大好きなロバートくんは、今回のジャーニーの目的地は井の頭公園にしたいと強く主張していました。彼は4月の花見(と和民での食事)だけを楽しみに1年間生きているような男なので、4月のジャーニーはもう花見しかない、それも井の頭公園の桜で!と考えているようでした。僕は正直言ってどこでもよかったので、ロバートくんがそうしたいならそれでいいと思っていたのです。

しかしBro.トシマサくんは違いました。個人のプライベートな事柄をここで公表するのも気が引けますが、思い切って言っちゃいますと、彼は元野球部のプロ野球マニア。彼もまた、プロ野球(セ・リーグ)開幕だけを楽しみにシーズン終了後の半年間を生きているような男なので、今回のジャーニーは3月30日のセリーグ開幕戦、それも横浜スタジアムの横浜-巨人戦で!と考えていたのです。

二人は一歩も退かず、各自の主張をわめき散らしました。しかし双方の思い入れは、口汚い罵り合い程度では到底収まりません。僕が「このままじゃヤバい!」と仲裁に入るより一瞬早く、ロバートくんの渾身のパンチがBro.トシマサくんのアゴにヒットしたのです…!

それからはもう、地獄でした。二人は力のかぎりパンチの応酬を繰り広げていました。和民の店内だったというのに。僕や店員さんは、止めに入ろうにも二人の気迫に気圧され、かたずを飲んで見守るばかりでした。

しかし、さすがの二人もスタミナには限界があり、パンチの勢いはだんだん鈍ってきます。疲れの見えてきた二人はなんと同時に、勝負を決めるべく最後の力を乗せた拳を繰り出しました。そして二人とも、和民の床に倒れこんだのです…!

すかさず僕はこう言いました。「君らの花見、そしてプロ野球への思い入れはわかった。だけど、プロ野球は半年やってるけど花見は4月の一週間ほどだけじゃないか!ケンカはたいがいにして、今回はロバートくんの意見を採ろうよ!!」

精魂尽き果てたといったていのBro.トシマサくんは静かにうなずきました。これで一件落着と思い、僕は安堵するばかりでした。しかし僕は見逃しませんでした。ロバートくんの口元が密かに、ニヒルにゆがんでいたのを…!


かくして、先ほどのこの写真に戻るわけですが。
どうですか?
二人のにこやかな笑顔の奥に、ドス黒い感情がうごめいているようには、見えませんか?
…とまあ、今回のジャーニーはこんな風に、最悪のスタートを切ったのです。

なんとか気を取り直して撮影スポットを探そうと、僕は必死でした。二人ももう子どもではありません、怒りを抑えて和解しようと懸命にこころみています。けれども前日にあんなことがあると、人間やはりギクシャクしてしまうものなのです。ぎこちない会話をしながら公園内を探索していきます。


でも、井の頭公園の桜は今日が見ごろ。気温は「本当に4月なのか」と疑ってしまうほどに高く、上着を脱がずにはいられません。そんな中で桜はまさに美しさの盛りを迎え、日本に生まれた僕たちは遺伝子に刻み込まれた感動に浸ります。桜が三度の飯より好きなロバートくんでなくとも、そんな感動を与えてしまう力が井の頭公園の桜にはありました。

ぎこちなさはどこへやら、くったくのない笑顔に溢れる僕たち「お米は生きている」。撮影も楽しくなってきます。ちょうどそのときでした。ロバートくんが撮影におあつらえむきのすごいスポットを発見したのです!やはり桜に関しては、彼の右に出る者はいません。


いつもどおり、野比家の食卓ばりの大盛りを特製お茶碗によそうロバートくん。農家の方が一粒一粒、丹精込めてお作りになった極上のごはんです。しかしそのごはんをやわらかに炊きあげ、美しいシェイプに盛りつけるロバートくんの技術もまた、匠の域です。


そして、かってないほどいい画が撮れました。僕の稚拙な写真技術でも、ロケーション次第ではこんなショットが撮れてしまうのです。撮影の一部始終を見守るBro.トシマサくんも感心していました。


トップ写真撮影の大役も果たし、やりとげた感慨に浸る僕たち。しかし桜の満開の井の頭公園、ここで帰ってしまうのはもったいない。というわけで、ボートに乗って池の水面から、桜を満喫することにしたのでした。

漕ぐのはもちろん、元野球部で体力には自信のあるBro.トシマサくんです。彼の背中のたくましさに、後ろに乗る僕は思わずため息をついてしまいます。(僕は同性愛者ではありません。)
いやしかし、池から眺める桜もまた格別なものです。両の岸辺の満開の桜は、池の奥に向かってどこまでも続いていく様で。


僕とBro.トシマサくんはすっかり見とれて、惚けてしまいました。
しかしこの男は違いました。


おもむろに船上でごはんをつぎ始めるロバートくん。
そう、桜マニアの彼は、さらに一歩進んだ桜の楽しみ方を心得ていたのです…!

水面に浮かべた船から眺める桜、それだけで満足してしまっていた僕とBro.トシマサくん。
ロバートくんは、それに、“最高のごはんを食べながら”という高等テクを加えたのです。


Bro.トシマサand僕「お、おいしそう!!!!!!」


池の岸辺で、手に取れるところまでこうべを垂れた桜の花。それをサカナにごはんを食らうロバートくん。さすが匠です。
僕とBro.トシマサくんはもう、うらやましくて仕方ありません。ヨダレがだらっだらです。ロバートくんはそれを知ってか知らずか、とてもおいしそうに食べ続けます。


僕ら二人にごはんをくれる気配なんて微塵もありません。


だんだんムカついてきました。

たくさん炊いてきてるんだから(二合)ちょっとくらいくれてもいいじゃないか!ちくしょう!!
誰もがそう思うことでしょう。だからこの仕打ちは、そう、彼の逆鱗に触れることとなったのです…!

さきほど申し上げた通り、前日にロバートくんと殴り合いの大ゲンカをやらかしたBro.トシマサくん。その怒りは華やいだ花見の空気が消し去ってくれたかに見えましたが。彼の胸中に僅かに残った憎しみの炎が、僕ら二人など眼中に無くごはんを独占するロバートくんを目にして再び、メラメラと燃え始めたのでした。いえ、爆発(explosion)したと言った方が正しいでしょう。

Bro.トシマサ「嘗めんじゃねえ!!!!」

ボートが不意にぐらりと揺れました。次の瞬間、オールを操っていたはずのBro.トシマサくんの両手はもうそこにはなく、左手はロバートくんの襟をぐいと掴み、右手はガチガチの拳を固めていました。Bro.トシマサくんは今にも、怒りの鉄拳を叩きこまんばかりでした。そして僕は見逃しませんでした。同時に、一心不乱にごはんを食べていたはずのロバートくんが、ものすごく怖い顔でトシマサくんを睨みつけていたことを。

一触即発どころではない、最終局面とはまさにこのこと。昨日以上の修羅場です。それにここは池に浮かべたボートの上なのです。どちらかが動いたが最後、ボートは転覆し全員が井の頭池の藻屑と消えることになるだろう。僕のすべての感覚がそう告げていました。極限状況に僕は為す術もありません。すべてを為すがままに委ねることにし、ゆっくりと目を閉じました。ああ、もう、どうにでもなってくれぇ!!!!



びしゃっ。
「冷ってえ!!」

突然背中に冷たいものを感じ、僕は叫んでしまったのです。とうとう転覆したかと思いましたが、目を開けてみるとどうやらそれは違ったようで、ボートは池に浮かんでいます。そしてロバートくんもBro.トシマサくんも、先程までの殺意はどこへやら、不意を衝かれた風にこちらを見ています。

とりあえず危機は脱した様なので、落ち着いて周りを見てみると。僕たちのボートの隣を中年グループのボートが通過していきました。僕の背中が感じた冷たさの正体がわかりました。そのボートの漕ぎ手のおじさんが張り切って(俺もまだ若いんだ!という風に)漕いだオールが水面をしたたかに打ち、盛大に上がった水しぶきが僕の背中にモロに降りかかった。そういうことだったのです。


紫のTシャツとは我ながら趣味が悪いけど、台無しです。いかに桜が満開だろうと、気温がやけに高かろうと、4月の池はやっぱりちべたい。僕はのたうちまわってしまいました。
いい年こいてボートもまともに漕げないばかりか、人に冷水をぶっかける。そして謝罪の言葉ひとつもないおじさん達に怒り心頭です。

しかしこのハプニングは結果的には、僕たち3人の人間関係を危機から救う、神様がくれたプレゼントだったのでした。突然の水しぶきを食らってわめく僕をみて、ロバートくんとBro.トシマサくんは争いを忘れ、吹き出していたのです。

あは…あはははははは!!!ははははははははは!!


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それからというもの、ボートでの花見は本来の楽しさを取り戻し、みんなには笑顔が戻りました。一連のいざこざを乗り越えて、僕たちの絆はまた少し強くなったような気がします。


ボートから降り、井の頭公園を後にしました。そして人気の老舗焼き鳥屋に入り、昨日のこと今日のこと、そして明日のことを、ねぎま(塩)片手にいつまでも飽かず、語らい続けたのでした…。


HAPPY END