ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第38回 ぼくの最強ドラムプレイ


とても嬉しいことがあったり、とても悲しいことがあったりした時、僕は決まって自宅の地下室に閉じこもる。
その日の夜も、僕はいつもと同じように、誰もいない地下室にひとり閉じこもり、ドラムセットを前にして、おもむろにスローンに腰を下ろした。
スティックを握り、瞼を閉じると、完全防音のこの部屋を満たす<静寂>が僕の身体にだんだんと滲み込んでいくのがわかる。
いや、わからない。
ただカッコつけて言ってみただけだ。
僕は<静寂>と一体化し、<静寂>の一部となる。
自分自身の不在を感じ取る。
いや、感じ取らない。
これもただ、カッコつけて言ってみただけのことなのだ。

一心不乱にドラムを叩く。
額から流れ落ちた汗が目に沁みようがどうなろうが、汗にまみれたまま僕は、目の前のドラムをただひたすらに叩き続ける。
自分で言ってしまうのもどうかと思うが、凄まじいドラムプレイである。
技術云々では到底語ることのできない圧倒的な迫力が、そこにはある。

はっきり言って、僕のドラムテクニックは拙い。
それは自分でもわかっているつもりだ。
しかしながら、地下室にこもった時の僕のドラムプレイは、どんな天才ドラマーたちの演奏をも凌ぐ。
真矢(LUNA SEA)もまこと(シャ乱Q)もサンコンJr.(ウルフルズ)も、はたまたジョン・ボーナム(Led Zeppelin)も、地下室にこもった僕のドラムプレイを超える演奏など、できるわけがないのである。

僕は自信を持って言える。
僕のドラムプレイは大迫力だ。
その上、どことなく切なくもある。
大迫力でありながら、切なさすら醸し出す僕のドラムプレイ。
新感覚だ。
従来のドラムプレイの概念を打ち破る、新感覚のドラムプレイだ。
それは他の追随を決して許さない。
いいや、絶対に許してなるものか。
それくらいの気迫で、僕はドラムを叩き続ける。

汗をたっぷりと吸い込み、身体にへばりつくTシャツ。
こんなものはドラムを叩き終えたら即座に脱ぐ。
なぜなら、とても気持ちが悪いからだ。
脱がずにはいられない。
それくらい不快なのだ。
もちろんパンツも穿き替える。
なぜなら、汗でびっしょりと濡れたパンツは、汗でびっしょりと濡れたTシャツの100倍気持ちが悪いからだ。
いいや、120倍かもしれない。
どちらにしたって、そんなもの、とても脱がずにはいられない。
でも、パンツを穿き替えるその前に、僕はきっとシャワーを浴びるに違いない。
なぜなら、汗にまみれて汚れた身体に洗濯をしたばかりの真新しいパンツを身に付けてしまうのは、どうももったいない気がするからだ。
そんなことをしたら、せっかく穿き替えたパンツがすぐに汚くなってしまう。
それは許せない。
絶対に許してなるものか。
それくらいの気迫で、僕はドラムを叩き続ける。


カッ、カァン、カラカララララ……。


スティックが床に転げ落ちる音とともに、僕はふと我に返った。
俯いて、ぜえぜえと肩で息をした。
足元のコンクリート打ちっ放しの床が、滴り落ちた大量の汗のせいで真っ黒に染まっていた。
やっぱり僕のドラムプレイは最強だ。
焦点が定まらないままの目で床を眺めながら、僕はそう思った。
とても嬉しいことがあろうとも、とても悲しいことがあろうとも、僕のドラムプレイの前ではそんなもの全部フラットになる。

僕はその後すぐに1階の風呂場へ向かい、Tシャツを脱ぎ、ジーパンとパンツを同時に脱いでしまって、シャワーを浴びて、それから、新しいパンツを穿く。
でも、その前に僕は束の間、もう一度<静寂>の一部となる。
僕は自分自身の不在を感じ取りながら、その日の夜も地下室でひとり、もう二度とドラムなんて叩きたくないと思った。


最強なのに……。


第38回 ぼくの最強ドラムプレイ 終