ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第34回 ぼくのなつやすみ


夏になると無性にモテたくなる。
夏祭り、花火大会、海水浴……夏にはモテ関連のイベントが目白押しだけど、今年も今年とて、僕はそんなものとはまったく無縁の場所にいて、冷凍庫にゴロゴロと転がったチューペットを無作為に取り出し、膝を使ってポキリと割ったそれをガリガリチューチュー貪り食い続ける日々を過ごしている。
それにしても、なぜかいつも冷凍庫にはオレンジ色のチューペットばかりが残ってしまう。
僕はあくまで無作為にチューペットを選び取っているはずなのに……。
あれは一体どういうわけなのだろう?
今僕が無性にモテたくなっていることとそれとは、何らかの関係があるのだろうか?
それとも、僕が某動画配信サイトにアップされている『新世紀エヴァンゲリオン』を暇に任せて全話ブッ続けで観てしまったことに対する神からの警告か?

もっと有意義な夏を過ごすのじゃ……。

冷凍庫に並んだオレンジ色のチューペットを改めて眺めてみると、誰かが僕をそんな風に戒めているようにも思えてくる。
僕はずっと自分がチューペットを無作為に冷凍庫から選び出しているとばかり思っていたけれど、実はそこには神の御意思が関与していた。
あ~、もうめちゃくちゃ暑いし、なんかそんな気もしないでもない気がする気がしてきた。
っていうか、きっとそうであるに違いないなぁ、これはきっと。
少なくとも神が僕に対して、オレンジ色のチューペットを冷凍庫に残すという行為を通して何らかのメッセージを伝えようとしていることに間違いはないはずなのだ。
あ~、なんかまたヘンな声が聞こえてくる気がする。

家に籠っているだけじゃ、モテるわけがないのじゃよ……。

ジーザス!!!
そうだ、ここでずっとこうしているわけにはいかない!
このままではモテるはずがないもんな!
ところでどこへ行けばいい?
僕はどこへ出かければいい?

ここではないどこかへ……。

それじゃ全然わかんねえっつーの!
存在から何から何まで抽象的すぎて全然ついていけないっつーの!
カッコつけずに具体的に言えや、ヤハウェ!
おい、コラ!
黙ってないで何とか言ったらどうなんだ、ヤハウェ!

…………。

あ~、もういいです!
とりあえず、あくまでとりあえず、散歩がてら近所の公園にでも行ってみることにしよう。
近所の公園に行ったからといってモテるわけでは全然ないけれど、こうしてじっと冷凍庫の中を眺めながら独り言を呟いているよりは、近所の公園にでも出かけた方がずっと健康的だもの。
そうだ、近所の公園に行こう。

そんなわけで、僕はようやく冷凍庫を閉め、5日ぶりにパンツを穿き、家の外の光を浴びるに至ったというわけなのである。


***




昆虫採集の途中で投げ出された虫捕り網と虫かご。
虫かごの中には赤トンボが何匹か。
近所の公園にやって来たものの、このありさまである。
誰もいない。
ほんとに人っ子ひとりいない。




ちょっと寂しくなってきた。
僕はひとりぼっちで立ち尽くす。




別の公園に行くことにしよう。
僕はテクテクと歩く。
あ~、なんだ、もうこんな時間なのか。




夕焼けだ。
夕焼けなんて久しぶりに見たなぁ。
そして、僕はテクテクと歩く。
あの公園に着いたら、ブランコにでも乗ってみようかな。
久しぶりついでに。
モテたいとか、そんなことはもうどうでもよくなってきたし、たまにはセンチメンタルな気分に浸るのも悪くないだろう……なんて、もうすでにセンチメンタルな気分。
僕はいつの間にか穏やかな気持ちになって、暑さでだるかった身体も、心なしか軽く感じられるようになっていた。
軽快な足取りで、次の公園へ。
しかし…………








ジーザス・クライスト!!!!!!
酷いよ、これ!
近所の子供の悪戯か、それとも神の悪戯か!
公園自体が徹底的に僕を拒んでいる!
僕に対して完全に心の扉を閉ざしている!


***


てなわけで、僕は公園の隅でうずくまり、泣いた。
夏ももうすぐ終わる。
長澤まさみ風の女の子とディズニーシーへ遊びに行きたい……。
そんなささやかな願いも叶わぬまま、今年の夏も終わりを告げる。
僕は家に戻り、冷凍庫の中からオレンジ色のチューペットを取り出し、それを膝で2つに割って、食べる。
オレンジの味がする。
僕はオレンジ味のチューペットがあまり好きではない。


結局、ただそれだけの理由だったのだ……。


第34回 ぼくのなつやすみ 終