ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第30回 ぼくのロックンロールスーサイド


先日、随分と久しぶりに「お米は生きている」メンバー以外の人と、長時間サシで話をした。その人は大学の友人で……あ、いや、1度も一緒に飲みに行ったこともないので、本当は「友人」と呼んでいいのかも怪しいくらいの間柄でしかなかったのだけれど、なぜかその日は時間にして3時間くらい、お互いの思いの丈を滔々と語り合ってしまった。しかも、全くの素面で。

素面で語り合うなんて、まるで「青春」みたいでめちゃくちゃ恥ずかしい。死にたい。恥ずかしすぎて、僕はもう明日にでも中央線を一時運休させてしまいそうである。ああ、「青春」なんて言葉はこの世から消えてなくなってしまえばいいのに。そして、ついこの間まで「青春パンク」なんてやっていた連中は、全員「青春パンク」をやっていた奴しかかからない得体の知れない謎の伝染病を患って死ぬか、ちゃんとロックンロールと正面からぶつかり合って「本当にいい音楽」を紡ぎ出しつつ年老いた後、家族に看取られながら安らかな死を迎えればいいのに……。

いや、それは冗談だけど、ある程度は本気で僕はそう思っている。「青春」なんて虫唾が走る。でも、いざ自分が「青春」っぽいシチュエーションにある時、案外まんざらでもなかったりする。それにまた腹が立つ。僕の2つ年下の弟がゴーイングアンダーグラウンドというバンドの曲を熱心に聴いているのを、僕は<ターミナル駅の改札前の柱の陰で別れを惜しみながらこれ見よがしにイチャつくカップルを一瞥する時>と同じような視線で見ていたけれど、実際に1人で歌詞カードを眺めつつヘッドホンをしてゴーイングアンダーグラウンドの曲を聴いてみると、これがめちゃくちゃ感動してしまったりする……まさにあの感じである。だから、とにかく、それにすっごく腹が立つ。あ、でも、ゴーイングアンダーグラウンドはいい曲をたくさん作っている。それは真実なので、誤解のなきよう。悪いのは、結局全部、僕なわけで……。

実を言うと、僕はその大いに語り合ってしまった友人(仮にQくんとしよう)のブログを、日頃からかなりマメにチェックしていた。適当に知り合いの名前を検索してリンクを辿ってみる、という暇潰しをしている最中に偶然発見してしまったQくんのブログには、彼の日常生活における恥部がかなりきわどい内容まで赤裸々に書き綴られていて、「あ、Qくん! ブログいつも楽しみにしてるよ!」なんて、僕はとてもじゃないけど言い出せずにいたのだった。で、その事実を結構序盤に打ち明けた。ブログやmixiといった媒体そのものに対する批判を、やんわりとではなく、かなり率直に添えつつ。

Qくんの態度はとても大人だった。僕ならムキになって、もう取り返しのつかないくらいにいろいろと反論してしまいそうなところを、彼は冷静に一旦僕の話を飲み込んでくれた。彼とサシで話すまでの経緯の中で、僕は彼の言動に対して憤る部分が多々あり、そんな風に辛く当たってしまったわけだったのだが、結局は自分という人間のあまりの小ささにハッとさせられることになってしまった。僕はQくんを怒らせたかったのだ。で、殴り合いのケンカに持ち込みたかったのだ。まあ、要するに、そこに至るまでのいろんなQくんのムカつく態度に腹が立って仕方がなかった僕は、彼のメガネを綺麗な蜘蛛の巣にしてやりたかったのである。しかし、そんな企みはハラリとかわされ、なぜかお互いの価値観についての議論に発展。実に「青春」っぽい、考えられる上での最悪な展開を迎えるに至ったというわけなのである。

2人でどんな話をしたかはここでは書かない。それをやってしまうと、近いうちに中央線が止まってしまう気がするから……というのは、もちろん冗談。今までこのコラムの中で、散々価値観に関する話をして読者のみなさんを煙に巻いてきたにも関わらず、今回に限って一番肝心なところを書かないのはズルいという気もするけれど、明日提出しなければならない大学のレポートをまだ一文字も書いていないので、ここはひとつご容赦願いたいところ。それに、書き出すときっと長くなってしまう、そんな予感もしているし……。

あ、そういえば、帰り際にQくんは僕にこんな言葉をかけてくれた。

「今日やっとオマエと、友達になれた気がするよ……」

ああああ、言っちゃった!? それは言わない約束でしょうが、たとえ心で思っていても! あるいは、ほんとは心じゃ思っていないのだとしても! その時すでに、黒いマントを纏ったもうひとりの僕が、僕の頭上右斜め45度あたりにぼんやりと現れて、その手にいつもの火炎瓶をスタンバイ。そいつは「クソメガネ2人組が、何しみじみしちゃってんだよ!」と言わんばかりの目つきで僕のことを睨みつけ(2人ともメガネをかけている)、次に僕が繰り出すべき気の利いた言葉を封じて込めてしまって、そして、僕は……。

僕はいつもそうやって注意深く、あからさまな「青春」を回避している。あの時僕が口にすべきだった言葉は、きっと僕の言葉ではない。あれは誰かのセリフなのだ。「青春」とは、誰かが巧妙に作った台本であり、僕らはそのドラマの登場人物にいつだって仕立て上げられそうになる。そんな時、黒いマントを纏ったもうひとりの僕が現れて、僕のことを脅す。で、僕は口をつぐんでしまうのだ。

「……シェ、シェケナベイベーナウ!!!」

結局、困った挙句にこれである。ロックンロール。めちゃくちゃ唐突だけど、信じられるものはただそれだけ。身体を小刻みに揺らしながら、僕は夜の街中で絶叫する。こんなセリフは台本にない。台本通りなら、そんな言葉は必要ないのだ。

「青春」なんて、ただの張りぼてじゃねえか。そんなもののことなど、僕にはさらさら信じる気がない。でも、打ち捨てられた「青春」のセリフは、僕の中にいつまでも残って、そして、そうやって沈殿したセリフの数々が、僕にこうやってクソみたいな文章を書かせ続けるのだ。最悪だ、もう本当に最悪だ。


Qくんが改札の向こうで軽く手を振った。


中央線の車両は、夜の闇を切り裂いて、息つく間もなく次の駅へと向かっていく。僕にはそれを止める勇気なんて、そもそもの初めから、全然なかったのにも関わらず…………。


第30回 ぼくのロックンロールスーサイド 終