ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第13回 ぼくはIQチャレンジャー


早押しボタンの上にそっと両手を重ねて添える。
手の平に神経を集中させ、息を凝らし、そして、モニターに映し出される文字を確実に目で追っていく。

「最・終・問・題」

ライフルの銃口が一層力強く僕のこめかみに押し当てられる。
一瞬にして血の気が引いていくのがわかる。
汗を目一杯吸い込んで肌にまとわりついたTシャツが急に冷たく感じられたのと同時に、僕の奥歯はガタガタと音を立てて震え始め、「集中しろ、集中しろ……」といくら念じてみてもそれはもうどうにもできず、さっきまでモニターをじっと見つめていたはずの目もいつの間にか焦点が合わないでいることに、僕はもはや諦めにも似た感情を抱かざるを得なかった。

「次の問題に正解すれば、あなたのIQは3600相当」

人類が未だかつて達成したことのない高みに僕は今まさに、文字通り命懸けで、挑戦しようとしている。
もちろん自ら望んでこんな苛酷な状況の中に身を置いているというわけではない。
僕はただこの先永久に続くかのようにも思われる悶々とした退屈極まりない日常に終止符を打つべく、話題の「脳トレ」を実践し、それなりの「脳年齢」を叩き出したことに気をよくして、視聴者参加型クイズ番組『クイズ・IQトレーニング』の地区予選に挑み、あれよあれよと言う間にスタジオ収録まで辿り着き、自分がお茶の間でテレビを観ていた時には考えもしなかったハードな番組内容に恐れおののきつつも順調に「スッキリ」を連発していって……そして現在に至るというわけで、番組放映時にモザイクのかかっている部分がライフルを手にした物凄くガタイのいい黒人であることを知っていさえすれば、こんな番組に参加しようなどとは考えもしなかっただろうと、とにかく自分のメディア・リテラシーの著しい欠如を反省するほかないのであった。

「問題文をよ~く聴いて答えてね」

僕は焦点の定まらない目でモニターに表示される文字をどうにかこうにか読み取っていく。
今までの出題形式を鑑みると、このフレーズが使用されるのは問題文の中にヒントが隠されている場合のみであり、そうとわかればもはや勝利はこっちのものだと、僕は心の中で小さくガッツポーズをとったのだった。

「次の3人の人物の中に……」

3択である!
最後の最後で3択である!
僕はその時自らの勝利と生存を確信した。

僕は生きて帰ることができるのだ。
僕は再び退屈な日常の中へと回帰することができるのだ。
なにも変わったことのない毎日。
大した刺激もない毎日。
時には深く思い悩み、死んでしまいたくなるような夜もあるけれど、それでも、それでも、そんな夜すら手放したくなどないのだと、僕は今心から言える。

早押しボタンに重ねたままの手の平がじっとりと汗で滲んだ。
さあ、次の3人の人物の中に、さあ、次の3人の人物の中に……一体なんだというんだ!?

「1人だけ、本物のビル・ゲイツがいます」

楽勝である!
ビル・ゲイツ!
アメリカ合衆国ワシントン州シアトル生まれ!
ハーバード大学中退!
マイクロソフト社の創業者にして、言わずと知れた世界一の大富豪!
容易に見分けることができるぞ!
これはもらった!
この問題、完全にもらったも同然だ!

「残り2人のクローンとしっかり区別して……」

よしっ!

「本物のビル・ゲイツをお当てください」

んんっ!?

「制限時間は30秒」

ク、クローン!?

「スタート!」








2択じゃん。



第13回 ぼくはIQチャレンジャー 終