ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第9回 ホットドッグプレスとぼく


よーし、準備は整った!
あとは実際にモテるだけだ!

ベッドの上に寝そべりながら、僕は静かにホットドッグプレスの表紙を閉じた。
顔を上げると、窓から差し込む西日が眩しい。
おのずと渋い顔になる【注1】。

僕がまだ日が暮れる前のこんな時間に、その日発売のホットドッグプレスを読み終えることができたのは、ほかでもない、僕がただの「帰宅部」だからだ。

帰宅部。

もちろんそんな部活はどこの中学を探したって存在しない。
スポーツは苦手だから運動部には入れないし、かといって入りたい文化部もない。
そんな一見無気力な無所属野郎ども(女子もいるけど)のことを、人はみな「帰宅部」と呼ぶ。
そして、サッカー部やバスケ部といったいかにもモテそうな部活で活躍している奴らを横目で見ながら、トボトボとエロい話でもしつつ家路につく……それが僕ら帰宅部のいつもの下校風景なのだ。

とにかく、そんな帰宅部の僕が「今日はちょっと用事があるから……」と同じ帰宅部メンバーに下駄箱周辺で別れを告げて、そそくさと本屋に向かう日が月に2回だけある。

そう、それが「ホットドッグプレスの発売日」だ。



【注1】モテない男子中学生の渋い顔ほど、人の心を掻き乱すものはない。思いっきりブン殴ってやりたくなる反面、力強く抱きしめてやりたくもなる。日本のモテない男子中学生諸君、頼むから僕の目の前で渋い顔をするのだけはやめておくれ。



***



ここで少しだけ、ホットドッグプレスとはどんな雑誌なのか、よくご存知ない方々のために、小説風の書き出しでこのコラムを始めたことを一切無視して、説明していくことにしよう。

ホットドッグプレスは、1979年に講談社から創刊された青年男子向けの総合情報誌である(隔週発売)。
流行のファッションの情報や恋愛マニュアルを主として取り扱い、大学生くらいの年齢層を中心に「モテない男のバイブル」として人気を博したが、発行部数の減少によって一時休刊、そして大幅なリニューアルを行って(ほとんどメンズノンノみたいなオシャレな雑誌になって)月刊誌として再刊されるも、2004年に惜しまれつつも再び休刊となってしまった。



***




ホットドッグプレスは断じてエロ本などではないが、僕の行きつけの本屋では、入荷されるとなぜかいつもエロ本コーナーに並ぶので、とても買いづらかったのを覚えている。
そんなことをしても何の意味もないのだが、大抵の場合、僕はホットドッグプレスを文房具と合わせて買っていた。
発売日の昼下がりに買いに来ているのだから、どう考えたって文房具の方が「ついで」である。
しかし、当時の僕にそんな道理は通用しない。

ホットドッグプレスは毎号2冊入荷されているのだが、次号発売日の直前に僕がその本屋に偵察に出かけても必ず1冊は残っているので、「この町でホットドッグプレスを購読しているのは自分だけなのだ」と妙な優越感に浸ることもしばしばあった。
今考えてみると、「そりゃ休刊になるわな……」と思わないでもないのと同時に、単純に在庫があってそれを補充していただけだったのではないかという疑問も浮かんでくるが、今さらそんなことを考えるのはなんだか馬鹿らしい。

というより、こんな文章を完全に締め切りを過ぎてしまった後に、どうにか火曜日中に更新しなければと、泣きながらメシも食わずに書いている自分が馬鹿らしい……いや、もうここまでくると愛おしい。
なぜ僕はホットドッグプレスの説明をしているのだろう?
わからない。
だが、僕は今何かに突き動かされるようにして、ホットドッグプレスにまつわる中学時代の淡い思い出を赤裸々に書き綴り続けている。
しかも、何度も何度も書き直し、締め切りを過ぎて焦りまくって、それでやっと調子が出てきたと思った矢先に書いているのがこのコラムである。
もう自分がイヤになるとか、そういうレベルの話ではない。

ものすごく愛おしい!

というわけで、繰り返しになるが、ホットドッグプレスは断じてエロ本などではない。
だから、僕が学校帰りに堂々と(コソコソか?)ホットドッグプレスを買うという行為は全く恥ずべき行為ではない(校則に違反しているかいないかは、また別の問題だ)。
しかし、ホットドッグプレスを買う僕の姿を友達に見られることは絶対に御免だ。
このへんが男子中学生の複雑なところである。

そんなこんなで、僕はその日も誰にも見つかることなくホットドッグプレスを買うというミッションをコンプリートし、自分の部屋のベッドの上でほとんど息もつかずに読了したというわけだ。

そして、その日も決意を新たに……

よーし、準備は整った!
あとは実際にモテるだけだ!

僕は静かにホットドッグプレスの表紙を閉じた。



***



あれからもう何年も経つけれど、僕は一向にモテそうもない。
ホットドッグプレスが休刊になった今、僕は一体何を頼りに「モテ」を模索していけばいいのだろう。
ああ、僕はもう完全に「モテ方」を見失ってしまった。


うーん、ポパイでも読むか!


って、そういう問題じゃねえか。




第9回 ホットドッグプレスとぼく 終