ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。

第7回 彼女とぼく


ますますモテなくなることを自覚しながら、今週はこんな文章を書きました。
恋愛って難しすぎて、僕には全然よくわかりません。
よくわかりませんが、よくわからないなりに一生懸命書きました。
ぜひ最後まで読んでみてください(特に女子!)。

 

 


***

 

 


あうっ、靴が脱げた。
勢いあまって前のめりになってリズムが狂って……うぐぐぐぐぐぐ……でも辿り着かなきゃいけないという気持ちだけで僕はなんとか右足の次に左足を、左足の次に右足を、前に出し続けることができる。
片足だけ裸足のままではバランスがとりにくいが、この際そんなことは……と考えたところで僕の心許ない痩せたカラダは宙を舞い、重力からの自由を思いがけない形で手に入れたことを不安に思う間もなく次の瞬間……


ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん!


僕はもうダメだと思った。
もう彼女には二度と会えないんだと悟った。


ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん!


ぐぐうっ……アスファルトの上で丸くなっている僕のことをまん丸の月が宇宙から見下ろす。
彼女は許してくれるだろうか?


ズズズズズズ、ズズ、ズー。


鼻水をすする。
ここから月は見えるけど、月から僕は見えないはずだ。
月が笑う……じゃなくて、滲む、揺れる。
僕は泣いているのかもしれない。

ゆっくりと立ち上がる。
ジーンズのポケットからケータイを取り出す。
彼女に電話したい。
電話したい電話したい電話したい電話したい。
電話したいから、僕は彼女に電話する。






「もしもし……」
「遅い」
「ごめん」
「いまどこ?」
「いま……渋谷」


渋谷じゃない!


「どうしたの?」
「……なにが?」
「泣いてない?」
「ごめん」
「なんで謝るの?」
「……ごめん」
「え? なに? どうしたの?」


ズズズズズズ、ズー。


「……いろいろ謝りたい」
「大丈夫?」
「大丈夫だけど、いろいろ謝りたい」
「どうして?」
「まだ外で待ってる?」
「ううん、遅いから近くのスタバ入っちゃったよ」


あー、いつもそうだ。


「そっか、ごめん」
「いいよ」
「ごめん」
「いまどこ?」
「渋谷」
「ほんとはどこ?」
「え?」
「渋谷じゃないでしょ?」
「……うん」
「どこ?」
「ごめん……わからない」
「……行くよ」
「帰る?」
「帰らないよ」
「どこ行くの?」
「そっち」


そっち?


「そっちって、こっち?」
「うん」
「わかるの?」
「なにが?」
「僕がどこにいるかわかるの?」
「わかんない」
「……うん」
「うん」







来て。
いますぐ。







「……じゃあ、待ってる」
「うん」
「……ごめん」
「切るね」
「ごめん」
「切るよ」






ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん。






電話が切れた。




いつもごめん。






かっこわるすぎて、かっこわるすぎて……僕は自分のあまりのかっこわるさに気が滅入って、道の隅でうずくまり、少しだけゲロを吐いた。

 

 


***

 

 


こんな風にボロボロになった最低の自分を救ってくれる人がいてくれたらいいのになんて、ふと考えることがあります。
いや、実際には「ふと」考えるというより「結構よく」考えています。
もちろんそんな神様みたいな人はいないってことくらいわかっているつもりです。
けど、僕はやっぱり求めてしまいます。
そんな神様みたいな要素を、誰かに、いつでも。



みなさんは、どうですか?

 

 

 

第7回 彼女とぼく 終