ライター:ロバート・コペンハーゲン
毒にも薬にもならないけれど、読んでみるとなぜだか平常心が保てない、そんな詩とも小説ともコントとも区別がつかない「二度寝してもう少し見ていたい悪夢」のような文章を、毎週懲りずに連載していきます。
第43回 ぼくは鼻セレブで尻を拭く


気がつけば季節は春、花粉症に悩まされる日々が続く。
止め処もなく溢れ出る鼻水を拭うのに最適のアイテムと言えば、それは言わずもがなティッシュペーパーであるわけだけれども、立川談志なら頭に巻いたバンダナを、石田純一なら履かずにとっておいた靴下を、ここぞとばかりに使うかも知れないし、もちろん使わないかも知れない。
それ以前に、たった今例に挙げた二人が花粉症であるかどうかさえ僕は寡聞にして知らない。
もしも立川談志が花粉症であり、なおかつバンダナで鼻水を拭うのだとしたら、初めからバンダナは頭ではなく鼻の下に装着しているはずである。
石田純一に至っては、普段履かない靴下をあえて買い溜めておくという行為自体が不可解であり、しかもそれで鼻水を拭うとなると、そのパーセンテージは限りなくゼロに近くなる。

かく言う僕は、多くの人がそうするように、ティッシュペーパーで鼻をかむ。
そして先日、僕は近所のスーパーマーケットで「鼻セレブ」を購入した。
「鼻セレブ」と言えば、王子ネピアから発売されている、肌理細やかでしっとりとした質感が特長のティッシュペーパーである。
「セレブ」と名がつくだけあって多少値は張るが、鼻のかみすぎでガビガビになってしまった鼻の下にこれ以上ダメージを与えまいと考えた結果、購入に踏み切った僕の判断は決して間違ってはいなかったようだ。
「鼻セレブ」は花粉症を患う人間にとっての強い味方だ。
そう実感すると共に、僕はある欲望の萌芽を自らの内面に発見するに至ったのである。

鼻でこれだけ快適ならば、ぜひとも尻も拭きたい……。

当然の人情というものである。
「鼻セレブ」ならぬ「尻セレブ」
あるいは「糞セレブ」とでも呼ぼうか。
今「『糞セレブ』とでも呼ぼうか」と書いた瞬間、僕の脳裏に神田うの風の女性の顔が浮かんで消えた。
それはまるで願いごとを3回口にする前に消えてしまう流れ星がごとく、一瞬の出来事であった。
なぜそんなことが起こったのか、僕には皆目わからない。
それはさておき、「尻セレブ」というタイトルのアダルトビデオがあっても僕は少しも驚かない。
極端に需要は少ないとは思うけれど、マニアックな筋の人のための「糞セレブ」だってあるかも知れない。
あと、沢尻エリカのことを僕は今日から個人的に「尻セレブ」と呼ぶことにしたい……そんな気持ちも一瞬脳裏を掠めたけれど、なぜそんなことが起こったのか、こっちは本当に僕にも皆目わからない。
不思議なこともあるものだなぁ!

お粗末な話が続いたが、実のところ、尻を拭くための「鼻セレブ」は存在している。
トイレットロール・4ロールセットで発売中の「鼻セレブ」の尻バージョン。

その名も……「肌セレブ」

はぁ!?
「肌」って何だよ、「肌」って!
馬鹿言ってんじゃねえよ!
鼻をかむのが「鼻セレブ」で、どうして尻を拭くのが「尻セレブ」じゃねえんだよ!!!
そんなのおかしいじゃねえか!
トイレットペーパーって基本的には尻の穴を拭くものだろ!?
「肌」だったらどこ拭いたっていいじゃねえか!
背中拭こうが、首周り拭こうが、膝の裏拭こうが、どこ拭いたっていいじゃねえか!!!
だったら「鼻セレブ」も「肌セレブ」でいいじゃねえか!
「鼻」だって「肌」の一部になるじゃねえか!
ずるいなぁ!!!
大人って本当にずるいなぁ!!!

この憤懣やるかたない気持ちはどこへ持っていけばいいのか!
そして、Googleで「尻セレブ」という言葉を(検索条件・フレーズを含むで)検索してみると1490件も該当してしまうという事実とどう向き合えばいいと言うのか!
もう随分と前から散々ネタにされてきた「尻セレブ」を今更扱ってしまっていることに、ここまで長々と書いた挙句に、いざ検索してみて初めて気づくなんて、もう僕には沢尻エリカのことを「尻セレブ」などと呼ぶ資格はないのではないか!
っていうか、そんな資格元々あるわけがないのではないか!
僕みたいな人間はそもそも「鼻セレブ」など使わずに、パーカーのフードの紐を鼻の穴に突っ込んで、鼻水を塞き止めておきさえすればいいのである!


ダムのように!


第43回 ぼくは鼻セレブで尻を拭く 終