ライター:鈴木アキヒロ
中学時代。あの頃僕らは何を考えていたのだろう。頭の中の九割は性欲で残りの一割で遊んだり勉強したりしていたあの頃。そんな時代を少年Sと一緒に思い出してみませんか?
ちなみに少年Sは筆者とは何の関係もありません。マジです。いやほんとに。ほんと ですって。

第2話 おみゃあら何やっとるだ -その2-

 

さて先週からの続きです。先週の話を読んでない方は是非読んでから来てください。

「昭弘。これ交番に届けねえか?」
手元に残った260円を見て、ハラマサくんは確かにそう言いました。
「え・・・?」
昭弘くんは絶句しました。そしてようやく
「何でえ?」
とハラマサくんに聞いたのでした。この場合の「何でえ?」の発音も名古屋弁なため、アパートなどの「1K」(わんけー)と同じアクセントになります。このあたりの発音は筆者としてもこだわりたいところなのです。共通語の発音で「何でえ?」ではオカマ言葉ですから。
「何でえって、拾った金は交番に届けないといかんだろうが。」
あのー。ハラマサくんさっき「あぶく銭はぱーっと使わんとな。」とか言ってませんでしたっけ?
「まあ、確かにそうだけど。別に使っちゃえばいいんじゃねえの?」
昭弘くんは言いました。当然の発想でしょう。当然そんな発想が出てきてはだめなんですが。
「いや、拾ったといえども元は人の金だしな。」
あのー。ハラマサくんさっき「今日は俺のおごりだ。」とか言って(以下略)
「もう俺たちはコンポタを飲んで、この500円から充分得るものはあった。だから残りは手をつけずに交番に届けるべきだと思ったわけだな。俺は。」
ハラマサくん、コンポタって・・・。
「ふーん、まあ、いいんでないの?拾ったのはハラマサだし。自分で決めたら?」
昭弘くんは半分あきれながらもそう言いました。ハラマサくんが、小学校時代先生の悪口を言っていたグループに「俺はそういうふうに陰で言うのは嫌いだ。」と一喝したりする、正義感の強い一面を実は持っているのを昭弘くんは知っていました。

「そうか、いや、やっぱり俺は届けるよ。悪いな。」
「いや、全然悪くはないけど。」
だったら俺にくれよ、という台詞をさすがに昭弘くんは口にできませんでした。
かくして、二人は最寄の駐在所(またこれが遠い!)まで自転車を走らせて260円を届けることになったのでした。
 まあ、でも二人もまんざら悪い気分でもありませんでした。何せ拾った金を届けるわけですから、いいことをしているわけです。もしかしたら「いやあ、近頃珍しい感心な若者だ。」なんつー話になり、学校に電話が行き、来週の月曜日には中学校の朝会で二人が全校生徒の前でほめられたりするかもしれないわけです。こう、自然と顔もにやけてくるわけです。こういうのを妄想と言います。

 しばらくして二人は駐在所に到着しました。田舎なので交番ではなく、駐在所です。だから中には駐在さんがいます。駐在さんは小学校の運動会などに来賓でやってきたりします。このへんは分かる人だけニヤニヤしていただければよいです。

「じゃあ、行くぞ。」
ハラマサくんが言いました。
「ん、行ってらっしゃい。」
と、昭弘くんがこたえると
「おいおい俺一人でけーさつに行かせる気かよ。薄情な奴だな。」
などとハラマサくんが言い出しました。自分で届けるとか言い出したのに何とも土壇場でチキンな野郎です。そこまで言われたら仕方ありませんので、昭弘くんも
「ああ。じゃあ、行く行く。」
と渋々言いました。言ってから昭弘くんは今のセリフの、「行く行く」の部分が若干やらしかったな、などとアホな事を考えましたが、やらしいので口には出しませんでした。

駐在所のガラスの引き戸を開けると、中には駐在さんがいました。50代初頭あたりの物静かな感じの駐在さんでした。
「ん?どうしたんだね?」
「お金を拾ったんで届けに来たんです。」
「おおそうかね。えらいなあ。じゃあちょっと紙にいろいろ書かないかんで、ちょっと待ってな。」
 駐在さんはそう言うとデスクの引き出しから何やら書類を出しました。
「ん。お待たせ。で、まず拾ったのはどっち?二人で拾ったんか?」
「拾ったのは僕です。」
ハラマサくんが言いました。
「そうか、で、いくら拾ったんだね?」
駐在さんがきくと、ハラマサくんはおもむろにポケットから例の小銭を取り出して、
「260円です。」
と言って、100円玉2枚と10円玉6枚を駐在所のデスクの上に置いたのでした。

 そのとき、駐在さんの目つきが変わりました。

「君たちね・・・、」
駐在さんは鋭い目つきになり、二人を見ながら静かに言いました。



「この260円はひとかたまりで落ちていたのかね?」




「え・・・・・?」



第3話につづく。