ライター:Bro.トシマサ
てんびん座でAB型の人は優柔不断だ、なんてきいたことはないけれど、僕が優柔不断なのはそのせいだとおもう。
そんなわけで、あいまいな僕の、あいまいな考えを、あいまいにつづっていきたい。

第13回 メモリー 


記憶っていうのは、必ず頭の中に残ってるってよく聞く。
どこかに消えて忘れられたわけじゃなくて、
その記憶の引き出しがなかなか開かないだけだっていうことだ。

だから、僕がこれまで見てきたことや聞いたことは
全て僕の中にあるわけで思い出そうとすれば思い出せるわけだ。
でも、どんどんその引き出しが開かなくなっていくんだろう。

僕はずいぶんいろんなことを忘れてきた気がする。
でも、今ならまだその記憶の引き出しを開けることができるかもしれない。
僕があの時、何を考えて生きていたのかとか、
僕の最大の関心事は何だったのかとか、
幼稚園のときのライフスタイルはどんな感じだったのとか、
今ならまだ間に合う気がする。

こんな事を考えるようになったのも、あれがきっかけだった。
いや、もちろん、他にもいろんな理由はあるんだろう。
だけど、あれが、僕の心境に大きな変化をもたらしたのは確かだ。
そう、あれはこんな風にして僕を訪れた。

僕は缶コーヒーを飲みながら、ひとり細い路地を歩いていた。
柔らかく包み込むような光が射し込んで、
風は季節の変わり目特有のあの匂いを運んでいた。
僕は、幸福感に包まれながらも、ふいにこれまでとは違う感覚に襲われた。

これはなんだろうと思う間もなく、急に僕はある人のことを思い出した。
いや、名前すらも忘れてしまっていた。
もう5年も会っていない。
そんな、あの人がふわっと匂い立つように急に脳裏をよぎったんだ。
まったく意味もないのに。

今の今まで全く忘れていたのに、
あの人は、今じゃ特別な存在感すらある。
もしかして、もっと他にもそんな人や出来事があったんじゃないだろうか。
それじゃ、なんか、さびしい気がするのだ。

まあ、悲しい出来事だって忘れていくわけだから、
記憶っていうものはそんなもんでいいのかもしれない。
いつまでも、学芸会で失敗して
先生にビンタされたことを覚えていたらやってられない。

結局のところ、記憶の引き出しがいつ急に開くのかは誰にもわからない。
忘れてる事自体忘れてるんだから、どうしようもない。
でも、晴れた日に、缶コーヒーを飲みながら散歩すれば、
急に開くかもしれないと、僕は信じ込んでいる。

あっ、タケシくんだっけなぁ。