ライター:としゆき
生まれは高松で育ちは名古屋、という東京には何ら関係ない人生を歩んできたが、最近上京したのでなんとなく「いまどきの東京」でも紹介することにする。
東京にはあまり詳しくないです。
当コラムはいまどきの京都(Travel@nifty)をはげしくリスペクトしています
第45回 引っ越しをしたい

引っ越しをしたい。

僕がいま住んでいるのは大学まで片道50分ほどかかるところなのだが、一人暮らしなのにわざわざこれだけの距離があるところに住んでいるなんて我ながらワケがわからない。実家生ならばこれくらいの通学時間なら普通なのかもわからないが、一人暮らしならば電車で乗り換え無しで数駅だったり、あるいは自転車で通える距離のところを選ぶものだろう。

なぜ僕がここに住むことにしたのかというと、長い通学時間をさしおいてもここに住みたくてたまらなかったから、なんてことは全くない。
大学受験が終わって進学先が決まり家を探さねばならなくなったとき、家を探しに東京まで行くのが何となく、非常に面倒な気分になったのだ。ちょうど同時期に姉が東京に就職を決めており、姉の家探しのついでに僕の家も適当に決めてもらってしまった。ただそれだけの理由でいまの所に住み始め、1年半経っても相変わらず住み続けている。

今住んでいる街は嫌いではないし、むしろ東京の街の中で一番好きかもしれない。ここはごく普通の住宅街だが、昼も夜もとても静かである。実家にいたころはよく車の急ブレーキ音やジェット機の飛行音が聞こえたものだが、ここではそんなものは一切聞こえない。
かといって田舎なわけでもない。駅前にそこそこ便利な商店街もあるし、そこで足せない用があっても、すぐに渋谷に行ける距離である。安いスーパーも家のすぐ近くにあり、その側にあるお寺ではよく可愛らしい猫も見かける。
うん、悪いところは一つもない。むしろ大変住みよいところではないか。
ただ一点、大学から遠いってことを除けば。

いや、僕は大学に近いところに住みたいのではない。
ちょっとこう「社会的ひきこもり」と呼ばれてしまうような大学生活を送っているため、何となく大学のごく近くの学生街的な所には住みたくない。あの微妙な居心地の悪さが家まで持続するような感じがして。ちょっとくらい離れていて雰囲気が違う街の方が、帰ってきたときに安心できるような気がする。

なので、大学から近すぎないが絶対に遠くはない、それなりに近いって感じの所に住みたい。
通学にかかるお金と時間は極力なくしたいが、あんまり近くはなんかイヤなので、自転車で15分~20分くらいのところに住みたい。

引っ越ししたい街の条件はだいたいそんな感じなのだが、それとは別に物件にももう少し欲張ってみたい。

まず、ユニットバスがそろそろイヤになってきた。
便器があるのと同じ空間で風呂に入るって、けっこうイヤなものなのだ。
うんこをする部屋で風呂に入る…。こうして文字にしてみると、改めてイヤになる。

加えて、もうワンルームはいやだ。
今の家は8畳ということになっている。一見広い部屋のように思われるが、ワンルームなのでキッチンと部屋の区別がない。つまり、家全体の広さも8畳であるのだ。
1Kのマンションでは、部屋は大体6畳~6畳半くらいだがキッチンが1畳半ほど確保されている。こちらも結局は家全体で8畳。キッチンと部屋を区別するドアがある分、どことなく暮らしに高級感が生まれる。ワンルームなんて、玄関から入ったら窓まで全部丸見えである。恥じらいの感覚を持つまともな現代人は、1Kに住むものだろう。

なんか今の家の悪いところを挙げてばかりなので、すこしはホメてみよう。
今の家はただ一点においては非常に優れている。「防音」に関してである。

一人暮らしの物件は壁が薄いことが多く、よく隣人の生活音が聞こえてくるという。
テレビの音とか話し声とか、麻雀パイのカチンという音とか。さらにうっとうしいものだと夜間の、中高生の男子が聴いたら眠れなくなってしまうような音だとか。

しかし我が家についてはそんなことはない。
どうやら壁にしっかりコンクリートが入っているようで、それらの生活音が聞こえてきたことが1回もないのだ。本当に、何にも音がしない。

音の種類によっては、ごく希に聞こえてくるものもある。
携帯電話が床などの上でバイブで震えている音と、バーベルのような重めの金属を床に落としたみたいな音。この二種類だけは、厚い壁を越えて聞こえる。
でもこんなん聞こえても全然気にならないので(後者は滅多にないし)まったく問題ない。

ということは、僕が出すたいていの生活音は向こうにも聞こえてないってことでもあるので、これまた心強い。
まあ僕はギターも弾けなければ家に人を呼ぶこともないので、お隣に聞こえて困るのはもっぱら「恥ずかしい思い出・忘れたい思い出などを何の脈絡もなく思い出して、突如として脳から発せられるようにして出る奇声」である。
これが隣人からは聞こえてこないので、僕のものも隣人には聞こえていないだろう。
と推測して、僕は安心しているのだ。

この推測は、そのような行動をする人間が実は世の中でごくごく少数派であったりした場合には脆くも崩れ去ってしまうのだけど。
多かれ少なかれみんなそうだよね?
違うとしたら、僕が心の病気なだけでお隣には全部聞こえているとしたら、恥ずかしさのあまり死にたくなる。

だらだらと書いてしまったが要するに僕は、大学から自転車で15~20分で、1Kで6,5畳くらいであり、突如奇声をあげたりしても隣近所に聞こえないほどに防音がしっかりしている部屋に引っ越ししたいのである。
もちろんその他の住環境も今より悪くなってはいけない。僕は衣食住の、とりわけ住にはうるさい男であるのだ。