ライター:としゆき
生まれは高松で育ちは名古屋、という東京には何ら関係ない人生を歩んできたが、最近上京したのでなんとなく「いまどきの東京」でも紹介することにする。
東京にはあまり詳しくないです。
当コラムはいまどきの京都(Travel@nifty)をはげしくリスペクトしています

第10回 いまどきのTOKYOビッグカツ


この連載の先週分(いまどきのTOKYO池袋西口)を何の気もなしに読み返していたら、ひどい誤りを発見してしばし唖然としてしまった。
どんな誤りかというと、東京芸術劇場についての記述の部分。5F大ホールに続くエスカレーターが云々というところで、最初に長ーいエスカレーターが印象的と書いて以降は、エスカレーターに関する記述なのに何故だか「エレベーター」とタイプしてしまっているのだ。
文章の掲載後に誤字脱字や正しくない表現に気づいても、思うところあってぼくはその修正を行わないことにしている。しかしこの間違いはちょっとひどい。これじゃ、ぼくがエレベーターとエスカレーターの区別がつかないみたいではないか。二十歳にもなって。
いや、実際その区別が先週までの自分には明確でなかったからあんな間違いをやってしまったという可能性も捨てきれないし、むしろそう考えたほうが自然なのかも知れないが…。

さて、そんなエレベーターとエスカレーターの区別が若干不自由なぼくですが、最近カツ丼が食べたい。
食べたいなら作ればいいんじゃないの、とか思われるかもしれないが。しかし、そんなに単純な話じゃあないのだ。


一人暮らしのぼくのアパートの台所、コンロはこのように電気コンロとなっている。温度の調節が6段階と若干大雑把である。炒め物や煮物にはこれでも全然問題ないのだが、揚げ物をおいしくつくるにはちょっとこのコンロでは温度調整が難しそうなのだ。それに揚げ物用の鍋も持っていないので、自炊はそれなりにこなしているものの揚げ物はいまだにやったことがない。チャレンジしたいとは思っているのだが、それにしたって専用の鍋がきっと必要だろうし、鍋があってもいざ調理となったらおいしく揚がる温度に調整するのに四苦八苦するのだろう。自分一人のメシをつくるためにそこまで頑張る気にもなれない。
そんなわけで揚げ物調理からは足が遠のく一方であり、カツ丼が食べたくてもカツが用意できないのだ。お総菜は、なんとなく油が多そうで買いたくないし。

でも、カツ丼が食べたい。なぜか唐突にカツ丼が食べたくてたまらない。揚げ物ができないという状況下でどうにかしてカツ丼を、店屋物ではなく手作りのものを食す方法はないのか。
今までの人生で得た知識経験を総動員してその解を求め思考を重ねた結果、ついに一つのすばらしく機知に富んだ答えが導き出された。


カツが自分でつくれないなら、これを使えばいいのではないだろうか。おなじみ駄菓子のビッグカツである。小学生の頃好きでよく食べていた思い出のあるビッグカツ、先日近くの100均ショップで久しぶりに見かけて懐かしくなって購入していたのだった。さっそく開封してかじってみたのだが、パッケージに「かわらないおいしさ!」とあるとおり、あのころと変わらないおいしさが口いっぱいに広がった。しかし同じくパッケージに記されている「スペシャルソース味」というのは確認できず、やっぱりカレーっぽい味がした。

というわけで、このビッグカツを用いてカツ丼をつくってみよう。さっそく100均に自転車で向かい、ビッグカツを調達してくることに。


勢いで10個買ってきてしまった。しめて260円。カツ丼つくるのにもたぶん二個は必要だろうし、残りのビッグカツで他の料理をつくってもいいだろうと思い多めに買ったというワケ。キャベツを刻んだものを添えてソースをかければまさにトンカツだし(ただし肉は魚介の練り物)細かく切ってチャーハンに混ぜてもいいかもしれないし、お好み焼きの具にもなるかもしれない。夢はいろいろと広がる。260円で夢は買える。

さあ、カツ丼の調理に移ろう。

●材料
ビッグカツ 2枚
水 100cc
和風だしの素 小さじ1
しょうゆ 大さじ1
さとう 大さじ1
みりん 大さじ1
酒 大さじ1
玉ねぎ 半分よりちょっと少ないくらい
卵 1個

●調理開始


玉ねぎを切る。薄く切る。まな板は100均で購入した桐のもの。大きくていい感じ。


鍋に水や調味料を入れ、玉ねぎを煮る。この写真、湯気が盛大に出ていてかっこいいと自分では思う。


玉ねぎが煮えてきたら、カツ丼の主役たるカツ、しかも今回はビッグカツを投入。おお、なんか見た目はホンモノのトンカツみたいじゃないか!予想以上にイケるぞこれは。ビッグカツの衣に、だしの利いた煮汁がしみこんでゆくのがわかる。こいつは、ジューシィなカツ丼になりそうだぜ!


ビッグカツに煮汁が十分にいきわたった頃合いを見計らって、ほどよく溶いた卵を流し込む。これがなければカツ丼は完成しない。煮汁のしょっぱさを卵の甘みが封じ込め、ふんわりとした風味をカツ丼にもたらしてくれるんだ!
どんぶりに炊きたてのごはんをよそい、あつあつのカツの卵とじを豪快にのせて、ついに完成。


ほんとに、予想以上のできばえで、カツ丼が完成してしまった。見た目カンペキにカツ丼である。テンションが高くなってきたので、大好きなペリエ(あらゆる飲み物の中でいちばんおいしい)も開けてしまった。ぼくの目の前にあるのは、念願のお手製カツ丼なのだ。揚げ物が作れないという致命的とも思える困難を乗り越えて完成した、どっからどう見てもカツ丼なのだ!

●食らう
あんまり感動していてもしかたがないので、さっそく食してみることに。
まずは主役のカツの部分を避け、卵とじの玉ねぎの部分をいただく。ぼくは、好物はあとにとっておくタイプなのだ。
…うん!おいしい。親子丼(かんたんなのでよくやる)の似たような部分とまったく同じ味だが、材料が同じなので当たり前のことである。
さあ、いよいよ本丸、ビッグカツの部分をいただこう。
煮汁がしみこんで柔らかくなったビッグカツを箸でつかみ、鼻先でしばし香りを楽しむ。すると煮汁のだしのかつおの香りの中に、ビッグカツ本来の香ばしい匂いが健気にそれでいてはっきりと自己主張して…?
思い切って口に放り込みカツを噛みしめてみると、衣を上品に染めあげた煮汁と卵のおいしさの中に、ビッグカツ本来のカレー味が野性的にぼくの舌を刺激して…?
ビッグカツは本来持っている練り身の弾力をより強固なものにして、噛み切ろうとするぼくの歯を拒み、一気に一枚まるごといただくというぜいたくな行為をぼくに迫り…?

とても、まずい。

衣が煮汁で蒸れていて、その蒸れた衣の味とビッグカツのしつこく消えないカレー味が絶妙な気持ち悪さを生み出している。ビッグカツはなぜか噛み切りにくく変貌していて噛み切れない。蒸れ蒸れの衣が箸をずるずると滑ってうまく口と箸でひっぱれないことが原因で噛み切れないのだと思うのだが、こんな気持ち悪いものを一気に食わねばならないとは。自分はなんでこんなバカなことをやっているんだろうという気持ちでテンションはどん底まで急落である。もちろん、完食できないほどではない。だが、これは二度と食べたくない味である。


完食。なんともいえない不快さが胸にのこる。残り8枚のビッグカツでもさまざまな料理にチャレンジしようと意気込んでいたが、一発目でもう二度とやるかという気分になり、ビッグカツ自体しばらく食べる気になれないので、残りは次に帰省するときのおみやげにでもします。