ライター:としゆき
生まれは高松で育ちは名古屋、という東京には何ら関係ない人生を歩んできたが、最近上京したのでなんとなく「いまどきの東京」でも紹介することにする。
東京にはあまり詳しくないです。
当コラムはいまどきの京都(Travel@nifty)をはげしくリスペクトしています

第6回 いまどきのTOKYOジャスコ


ジャスコが、恋しい。

何を突然と思う方もいらっしゃるだろうから、ぼくとジャスコの思い出話みたいなものを少しだけしておこう。ぼくとジャスコの間には、「買い物客と大型スーパー」以上の、ちょっと特別な関係があるのだ。

ぼくは香川県高松市の生まれである。高松で生まれたといっても、両親が両方とも高松出身で、母がぼくの出産のために実家に帰って高松の病院でぼくを産んだというだけであって、高松で暮らしていたことはほとんどないのだが。
だが父母の実家は両方とも高松なわけで、いつも夏休みや正月に行く「おばあちゃんち」は両方とも高松にあった。だからなんとなく自分の出身地は、そこで生まれたという意味でも、なんていうか自分の原点みたいなものとしても、高松であるような気がしている。

そこで、「ジャスコ」がぼくの人生に浮上してくる。ぼくの母方の祖父母の家の近くには、ジャスコがあったのだ。
おばあちゃんちに行くと、買い物は決まってジャスコに行った。食料品を買いに行くのもそうだし、小さい子っておじいちゃんおばあちゃんにはおもちゃをねだるもので、ぼくもおばあちゃんとジャスコに行って、飛行機やボールなどのおもちゃを買ってもらった覚えがある。
ぼくが小学校に上がって暫く経った夏休みにも、おばあちゃんちに行ったときに、同時期に帰省してきていた何歳か下のいとこと叔母と、おばあちゃんとジャスコに買い物に行った。ぼくはそのころはあまりおばあちゃんに物をねだらなくなっていたが、いとこが当時流行っていた戦隊もののロボをおばあちゃんに猛烈にねだっているのを傍観していた思い出がある。彼はびえんびえん泣きわめき「買ってくれるまで帰らない」と今思えばけっこう凄い啖呵を切って、叔母に怒られていた。そのいとこは今では大阪で高校生をやっていてラグビー部に入っているようだが、ぼくはまだ彼の「買ってくれるまで帰らないストライキ」を覚えている。

ちょっと話が逸れてしまったがとにかく、ぼくの人生でジャスコは、「最初のスーパーマーケット」のようなものとなっているということだ。もっとも馴染みがあって、もっとも身近なスーパー。

そう、ジャスコはぼくの人生で、ずっとぼくの近くにあった。小学校に上がってから大学に入るまでずっと名古屋にいたのだが、そのときもうちの家族の買い物はずっとジャスコだった。中学校までは服は親の買ってきた服を着ていたが、とうぜんジャスコの服だった。
食料品もジャスコが多かったし、小学校のころ友達とジャスコに行ってゲームの試遊台で遊んだこともよくあった。やっぱり、ジャスコはいちばん親しみのあるスーパーだった。

ところが、大学生になって東京に出てそれは一変した。無いのだ、ジャスコ、近くに。
近くどころか、どこにも無いのだ。そんなに交遊範囲が広くはない、むしろ超狭いぼくだが、しかしどこに行ってもジャスコは無い。渋谷にジャスコは無い。新宿にもジャスコは無い。最寄り駅にもやっぱり無い。

そしてぼくは食料品などの用を、今まで名も知らなかったスーパーで済ますようになった。だが、やっぱりチェーンが異なるとスーパーの雰囲気はぜんぜん違ってくる。そのスーパーには火曜特売は無い。毎月20日のお客様感謝デーも無い。トップバリュー製品も置いていない。閉店間際の店内にかかる謎のオリジナルソングもない。「もしも明日が雨降りだったら、ジャスコで会いましょう」みたいな歌がない。

ここで、冒頭の思いに至るわけである。ジャスコが、恋しい。
ならば、せっかくこの連載をやっていることだし、東京でジャスコを探して連載のネタにしてみればいいじゃないか。
前置きがやたらに長くなったが、それもぼくのジャスコに対する愛着の深さの所為だ。

今回はジャスコに行くと決めたものの、去年上京してからというものジャスコとは遭遇していないのでどこにあるんだかわからない。あるのかないのかすらわからない、たぶんありそうなものだけれど。とりあえずジャスコの公式サイトで店舗情報を検索すると、東京でも数はそれほどではないが、普通に店舗を展開していることがわかった。店舗の位置を見ると、どこもぼくの生活圏とは完全に外れているようだ。
東京には7店、埼玉と神奈川に8店ずつ、千葉には一気に増えて20店。この分布に、ジャスコの性質が表れているのかもしれない。

さて、どこに行くとするか。東京都の店舗リストに、「ジャスコ品川シーサイド店」というのがある。なんだか、ジャスコなのにかっこいい名前だ。これまで出会ったジャスコとはひと味違うような気がする。ここにしよう。
というわけで、りんかい線に乗り込み品川シーサイド駅へ。



電車を降りて地上に上がると、なんだか新しそうだが無機質なビルに出てしまった。そして向こうには夜の闇が広がる。人がやたらに少ないのもちょっと怖い。こんなところに大衆スーパーのジャスコがあるのだろうか?ちょっと不安になりながら、「ジャスコのありそうな方角」をなんとかして感じとり、そちらへ向かって歩いてみる。

すると、ぼくの不安は杞憂に終わったようで、そこにはジャスコ品川シーサイド店が優雅な佇まいをみせていた。



これは、かっこいい。円形のショッピングモール(品川シーサイドフォレスト オーバルガーデンと言うらしい)の中核に、元締めのような感じで我らがジャスコが位置する感じである。オーバルガーデン中庭の植木にはイルミネーションが施されている。こんなにかっこいいジャスコにぼくは出会ったことがない。期待以上だ。上京して離ればなれになってしまったジャスコにようやく会えた喜びで、胸がいっぱいになる。

早く店内に入りたい気持ちを抑え、外側に回り込んでもう一枚パチリ。



ううむ、かっこいい。

外観のかっこよさをたっぷり味わったところで、いよいよ店内に入ることに。さて、どんなすばらしい商品がぼくを待ちうけているのだろうか。ジャスコといえばその多彩な専門店街が特徴である。家電にテレビゲーム、書店から衣料品、メガネに食料品となんでもそろっている。明るくあたたかな光をたたえる正面入り口にぼくは歩いてゆく。高松のジャスコに祖父母と、名古屋のジャスコに両親と、ぼくは本当によく行ったものだった。幼い頃は手を引かれながら。今ぼくは、品川のジャスコにひとりで足を踏み入れる。

そこは、やはり、どこからどうみても、ジャスコだった。スーパーチェーンにはそれ独自の雰囲気というものがある。具体的にどこがどうとかはいえないが、照明の色具合や陳列の仕方、専門店スペースの配置、その全てがジャスコだった。

ところがここで、思いもよらぬタイミングで今回の取材を中断せざるを得ない出来事が発生してしまった。

店内に入り、まず一枚店内の雰囲気をおさめておこうとデジカメで一枚写真を撮った瞬間だった。警備員の方がぼくのほうに歩いてきて、
「今写真撮った?撮ったよね?ここ撮影禁止だから」
と、淡々と言いはなったのだった。

このひと言で、ぼくの心は折れてしまった。

もちろん、撮影禁止だと知らずに撮影したぼくが悪いのはわかる。だが、誰がジャスコの店内が撮影禁止だと知っているというんだろう。ジャスコに行って写真撮るバカはぼくぐらいのものかもしれないが、禁止なら入り口のところにでかでかと「店内撮影禁止」と書いておいてほしい。

それに、ぼくは純粋にジャスコに親しみを感じていた。他のスーパーにはない特別なものを感じていたからこそ、今回の題材に選んだのだ。だが、ぼくはジャスコに拒絶されてしまった。ぼくの気持ちはジャスコには届かなかった。今回の取材に懸けた思いが完膚なきまでに打ち砕かれたような気がしてぼくは、店内にそれ以上いるのが耐えられなくなり、本当に逃げるようにして店を出た。

打ちひしがれたまま、ぼくは辺りをブラブラしていた。





品川の再開発地区に建てられたまっさらなビジネスビルや高級マンション。その隙間の寂しさを埋めるようでいて、余計に寂しさを募らせるような植木とイルミネーション。人通りがとても少なく、空気は静寂としている。一人で歩いていても寂しいだけだが、女の子と一緒だったらこういう場所こそがいいのかもしれない。渋谷とか、ああいう人のやたらに多いところよりは絶対にいい。一通りショッピングモールを見たあと、ジャスコで一緒に食材とか買って帰って鍋やりたいなあ…。ああ、ジャスコのことが頭から離れない。



うろうろした挙げ句、やっぱりもどってきてしまった。恋に破れた少年のような気持ちでぼくはジャスコを見つめる。ぼくを拒絶したジャスコ品川シーサイド店をじっと見つめる。
そして、ことの顛末をもう一度整理してみる。

ぼくは、いつの間にかジャスコに「故郷」のイメージを重ねてしまっていたのかもしれない。それはひどく愚かなことだろう。ジャスコはそれは間違いだとぼくに教えたかっただけではないのか。そんなものを心の支えにするのはやめて、もっと芯を強くもって生きていけと言いたかったのではないか。

勇気を出して、もう一度だけ入ってみよう。今度は、撮影とかはなしで。

ぼくは先ほど警備員の方に注意を受けたのとは別のフロアの入り口から入店した。ジャスコはうって変わって、カメラを持たないぼくを暖かく迎えてくれた。食料品のコーナーを一回りする。若干、最近よく利用している最寄りのスーパーより高いことに気付かされる。回り終わるとぼくは、食料品コーナー併設のファーストフードコーナーに行き、ミスタードーナツで「オールドファッション」を買った。



オーバルガーデンの、さっきより少し遠目のベンチに腰掛けオールドファッションをひと口ふた口、ゆっくりと食べる。煌びやかな電飾を纏った植木の向こうのジャスコは、もうどこか遠くの存在になってしまったように思える。オールドファッションの飾らない甘さが、「もうあそこは、君の帰る場所ではないんだよ」とぼくに教えてくれたような気がした。



●補足●
高松のジャスコは、もうずいぶん前に閉店してしまったそうです。